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ギランバレー症候群の原因
約70%に先行感染を認める
ギランバレー症候群は先行感染の後、1~3週間後に急性に発症する。病原体はカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)が最も多い。先行感染で見られる病原体と末梢神経の構成成分であるガングリオシドと同じ抗原性を持つため、自己免疫反応により末梢神経障害が引き起こされていると考えられている。
脱髄型・軸索型がありほぼ同頻度である
ギランバレー症候群は、末梢神経の髄鞘(シュワン細胞)が傷害される脱髄疾患と考えられていたが、軸索を傷害する軸索型GBSの存在も明らかになってきた。先行感染様式も、脱髄型では上気道感染、軸索型では消化器感染(胃腸炎、下痢)と異なる。
検査所見-蛋白細胞解離、伝導速度の低下、M波高の低下が補助診断に有用-
腱反射は減弱、消失する。
血液検査にて、抗ガングリオシド抗体が陽性、中でも抗GM1抗体が陽性となる。(自己抗体が検出されない例もあることから細胞性免疫の関与も考えられている)
髄液検査にて、蛋白細胞解離が認められる。糖は正常である。
補足:蛋白細胞解離
髄膜炎などの中枢神経系の感染症では、炎症を反映して、蛋白・細胞数両方の上昇が見られる。GBSでは、蛋白の上昇のみが認められ、これを蛋白細胞解離といい、比較的特異的な所見である。しかし、発症初期(目安として1週間)には上昇しないことも多いので注意が必要である。
末梢神経伝導検査では、
- 脱髄型:伝導速度の低下、伝導ブロック
- 軸索型:M波高(振幅)の低下
が認められる。
補足:神経伝導検査
髄鞘は、神経線維を取り巻く絶縁体のようなもので、活動電位の伝達速度上昇を可能としている。髄鞘の隙間(ランビエ絞輪)でしか活動電位を発生させることが出来ない(跳躍伝導)。脱髄 = 跳躍伝導不能 = 伝達速度の低下である。
軸索の傷害は神経線維の数の減少を意味する(跳躍伝導は可能)。伝達速度に影響はないが、筋力を反映するM波の高さ(末梢神経神経伝達速度検査における振幅)が低下する。
ギランバレー症候群の概要
多発根ニューロパチーの基本は多発ニューロパチー
ニューロパチー(Neuropathy)とは、末梢神経障害のことで運動麻痺・感覚障害・自律神経障害を包括する。
障害の程度には偏りがあり、GBSは運動麻痺優位のNeuropathyで初期には感覚障害を認めないこともある。
ニューロパチーには障害部位の分布により、主に3つに分類される。
多発根ニューロパチーの基本は多発ニューロパチーである。そのため、主な3つのニューロパチーのひとつである多発ニューロパチーの特徴を抑える。多発ニューロパチーは複数の末梢神経が末端から障害されたもので、代表的なものには糖尿病性ニューロパチーがある。多発ニューロパチーの特徴として
- 左右対称
- 四肢末端からの障害
- 感覚障害はglove&stocking型(手袋靴下型)
を呈する。
画像1 手袋靴下型の感覚障害
通常、末梢神経は長い(脊髄から遠い)神経から傷害される。糖尿病性ニューロパチーでも一番初めに傷害されるのは足である。多発根ニューロパチーは四肢末端だけでなく、症状のピーク時には近位部、体幹にも運動障害を認める。「根」は神経根の根であり、脊髄の根本から傷害される= 体幹も障害と捉える。ポイントは多発根ニューロパチーの基本は多発ニューロパチーと同じ「左右対称+四肢末端の運動・感覚障害」であり、上行性に運動障害が進展するということ。
多発根ニューロパチー = 多発ニューロパチー(左右対称、四肢末端の運動・感覚障害)+ピーク時の体幹の運動障害
末梢神経障害の理解を深めたい方はこちらをどうぞ
症状-運動麻痺が優位/呼吸障害に注意-
ギランバレー症候群は特徴的な臨床経過を抑えることが重要である。臨床経過の特徴は診断基準に関わる。
先行感染の1〜3週間後、症状が急性に発症する。両側対称の四肢末端の運動・感覚障害を認め、腱反射は消失し、フラつきを自覚する。発症4週以内に症状がピークを迎えることが多く、麻痺が上行性に進行し、呼吸筋を含む全身に広がり、球麻痺、顔面神経麻痺に麻痺が進展することもある。上行性に進展すれば歩行障害、構音・嚥下障害、呼吸障害をきたす。レスピレーター管理となることもある。
neuropathyと言っても運動・感覚・自律神経の障害の程度は疾患の程度・経過により様々である。GBSの症状は常に運動麻痺が優位である。特に、感覚障害は四肢末端に留まる。GBSでは神経根が障害されるので通常しびれ、痛みを訴えるが、表在感覚、深部感覚の障害は稀である。
重度の自律神経障害が高頻度で認められ、血圧の異常(低血圧、高血圧どちらも認める)、脈拍の異常があり、死亡の原因になることもあるので注意が必要である。
下肢優位に麻痺が出る
足から症状を呈することも特徴的である。「歩きにくくなった」「足に力が入らなくなった」など訴えることが多く、膝の腱反射も消失していることが多い。
検査と診断
電気生理学的検査が最も重要。
- 末梢神経伝導速度の遅延
- F波の消失ないし出現頻度の減少
- 伝導ブロック
一方、伝導速度は終始正常で、複合筋活動電位の振幅低下のみが認められる病型もある(軸索型)
予後
症状の進行は4週までには停まり、その2~4週後に症状が改善し始める。ギランバレー症候群の多くは完治し予後良好である。しかし約20%には筋力低下や麻痺などの後遺症が残る場合があり、一部の重篤例では歩行不能になる。稀に死亡することもあり、主な死因としては自律神経障害による血圧異常、不整脈などである。
治療
基本的に、軽症例では保存療法を行う。ステロイドは無効である。(多くの自己免疫疾患では有効とされるステロイドだがギランバレー症候群では無効とされ使用されていない、使用すべきでない)
GBS
発症初期には、プラズマフェレーシス/血漿交換療法(有害物質もろとも血漿を除去し、代替FFPを補充する方法)や免疫グロブリン(γグロブリン)を大量静注するIVIg(intravenous immunoglobulin)がある。
通常は身体への負担の少なさや、特別な設備を必要としないことからIVIgが選択されることが多い。
呼吸筋麻痺をきたした場合は、レスピレーターなどによる管理が必要である。症状のピークに備えて注意深く呼吸機能をフォローする。
鑑別疾患:CIDP -ステロイド有効、先行感染(-)、再発性-
慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP:chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy)は、GBSと非常に似た経過をとる疾患で鑑別が時に困難である。おなじく自己免疫性の機序による疾患と考えられており、症状も四肢末端の運動・感覚障害、腱反射消失とGBSと同様である。
GBS同様、臨床経過に注目する。GBSが発症4週間以内にピークを迎えるのに対し、CIDPは再発性または2ヶ月以上にわたる慢性進行性である。
また、先行感染を伴わず、血清抗体も多くは陰性である。
障害の違いで言えば、GBSはMotorを中心に障害されるのに対し、CIDPはMotor-Sensory-neuropathy(Motorニューロンが障害されてSensoryも障害されるパターンのneuropathy)
簡単に言うとGBSはSensoryは障害されにくいので、感覚障害が比較的強くみられたらCIDPらしい所見ということです
治療にステロイドが有効であることがGBSとの大きな違いである。他の治療はGBSと同じIVIg療法、血漿交換療法である。
GBSを疑い、治療し軽快したものの再発して再治療という経過から改めてCIDPと確定に至る症例もある。
画像引用
画像1:医学書院
まとめ
ギランバレー症候群(GBS: Guillan Barre Syndrome) |
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