甲状腺の疾患は、あたりがつくまでは簡単でもそれがBasedow病なのか、亜急性甲状腺炎なのか、無痛性甲状腺炎なのか、Plummer病なのか…たどり着くためにはそれぞれの疾患について知る必要があり一筋縄ではいきません。ひとつひとつ違いを比較しながら整理していきましょう。
このページでは亜急性甲状腺炎を中心にまとめていきます。
目次
亜急性甲状腺炎とは
原因不明の甲状腺炎です。特定はされていませんが、ウイルス感染が誘引となり引き起こされると考えられています。濾胞破壊により甲状腺ホルモンが血中に流入、一過性の甲状腺中毒症状を呈します。
好発
- 男:女 = 1:10 で女性に多い。
- 30~60代が85%
- 夏に多く数ヶ月の経過で自然治癒する予後良好な疾患である。
原因
上気道感染が先行することが多く(先行感染)、ウイルス感染が原因と考えられている。
経過
甲状腺中毒症状
血中の甲状腺ホルモンが高値となることで起きる症状です。
- 頻脈
- 動悸
- 体重減少
- 収縮期血圧↑(拡張期血圧↓) =脈圧の増大
- 発汗(皮膚湿潤)
- 手指振戦
- 易疲労感、全身倦怠感
- 下痢
などがあります。
これは亜急性甲状腺炎に限らず、
- Basedow病 (甲状腺ホルモンを過剰に産生・分泌するため)
- Plummer病 (結節性病変が自律的に甲状腺ホルモンを産生するため)
- 無痛性甲状腺炎の急性期 (橋本病を基礎にもつPtが何らかの誘因により甲状腺が破壊されるため)
でも見られます。
血中ホルモンはどうなるか?
- 血中FT3・FT4 ↑
- 血中 TSH ↓
を示します。TSH↓はネガティブ・フィードバックですね。
経過に注目しよう
上気道炎などの先行感染に続き、高熱、圧痛を伴う甲状腺腫をみとめます。甲状腺腫は硬く、痛みは前頸部から耳介後部へ放散します。("のどの痛み"を訴える)
また、"亜急性"と言うように経過はやや長く、数カ月で完治します。破壊由来の甲状腺中毒症なので一過性に増加し、その後一時的に甲状腺機能低下状態になります。Basedow病は産生する疾患なので、発症後は甲状腺機能亢進症の状態が続きます。
治療
放置しても8週くらいの経過で自然治癒します。痛みが強い場合はNSAIDs、さらに炎症が強い場合は副腎皮質ステロイドを使用します。
甲状腺中毒症状にはβ遮断薬を用います。
抗甲状腺薬は使用しません
破壊由来の中毒症状なので、機能亢進による機序ではないので、抗甲状腺薬や無機ヨードは効果がありません。
鑑別
亜急性甲状腺炎が喉の痛みを訴えることから咽頭炎、また血中甲状腺ホルモン高値からBasedow病と誤診されている例は少なくありません。
わかりやすい甲状腺中毒症状や血中甲状腺ホルモン値、TSH値は鑑別点になりません。
これまでで鑑別に使えそうなものは、
- 季節性の先行感染を伴うこと
- (著名な)疼痛圧痛を伴うこと
- 一過性の甲状腺中毒症状であること
などがありました。
1.の先行感染は炎症性の疾患なので赤沈の亢進、CRP↑↑も診断に有用です。
2.の疼痛圧痛はBasedow病を初めその他の甲状腺疾患では特異的ではありません。
3.の経過では、例えば"6ヶ月以上続く甲状腺中毒症"であればそれはBasedow病を強く疑う所見で、一過性の亜急性甲状腺炎を外せます。長くても3ヶ月以内です。
131I-uptake の著減
Basedow病は131I-uptake が増加します。またはTcシンチグラフィー。(鑑別点)
Basedow病は産生が亢進しているので材料となるヨードの取り込みが亢進しますが、濾胞が破壊されている亜急性甲状腺炎ではヨードが集積しません。
エコーで低エコー領域
疼痛部に一致して低エコー領域を示します。
creeping pain
疼痛部位は初め限局して腫大も限局していますが、進行すると対側に痛みが移動することがあります。これを
と言います。腫大の程度も進行するとびまん性に広がります。
無痛性甲状腺炎との鑑別
無痛性甲状腺炎は、同じ破壊性の甲状腺中毒症を呈する疾患で一過性の経過をたどるので経過では鑑別できません。"無痛性"と付いていることから痛みはなく、逆に亜急性甲状腺炎では圧痛が著名でしたね。また無痛性甲状腺炎は橋本病を基盤に発症することから、自己免疫性の機序を持っています。自己抗体を調べることも鑑別点になります。
【108I70】
42歳の女性.「風邪がいつまでも治らない」と訴えて来院した.2週前から微熱が出始め,その後38℃程度まで上昇,同じころから「のど」も痛くなり,寝るのもつらいほどだという.以前,風邪で処方された鎮痛薬を飲んでみたが改善しなかった.既往歴と生活歴とに特記すべきことはない.体温38.5℃.脈拍84/分,整.血圧122/80mmHg.前頸部で気管の左外側に圧痛を認める.咽頭に発赤と腫脹とを認めない.心音と呼吸音とに異常を認めない.血液所見:赤血球420万,Hb 13.5g/dL,Ht 39%,白血球8,000,血小板19万.血液生化学所見:TSH 0.02μU/mL(基準0.2~4.0),FT4 3.3ng/dL(基準0.8~1.7).免疫血清学所見:CRP 5.5mg/dL,抗TSH受容体抗体陰性.頸部超音波検査で疼痛部に一致した低エコー域を認める.
治療薬として最も適切なのはどれか.
a 抗菌薬
b β遮断薬
c 無機ヨード
d 抗甲状腺薬
e 副腎皮質ステロイド