周期性四肢麻痺(periodic paralysis)とは、周期的・発作的に四肢/体幹の麻痺を呈するもので低K血症が誘因になることが多いものです。
周期性と名がありますが、一定の間隔で発作を起こすという意味ではなく、脱力発作が繰り返されるという意味です。periodicには「間欠的な、断続的な」の意味があるので間欠的四肢麻痺とでも訳したほうが良いかもしれません。
<発作の特徴>
発作は1時間未満で収まるものもあれば、数日持続するものもあります。四肢麻痺は下肢から上肢へ、近位筋から遠位筋へと広がり、横隔膜や呼吸筋は傷害されず、呼吸麻痺はきたしません。
周期性四肢麻痺を起こす代表的な疾患は甲状腺機能亢進症ですが、ほかにも原発性アルドステロン、Bartter症候群、利尿薬、尿細管アシドーシス(RTA)などがあります。
これらは低K血症をきたす理由で分けるとスッキリします
Basedow+インスリン分泌 | K喪失によるもの |
Basedow病 | PA、Bartter症候群など
利尿薬 尿細管アシドーシス(RTA) 下痢、嘔吐の反復 甘草中毒 |
とりあえず、Basedow病によるものとK喪失によるものがあると理解しておけばOKです。
まず、簡単なK喪失によるものをおさえて、次に代表的な甲状腺機能亢進症による周期性四肢麻痺についてみていきましょう。
K喪失に伴う周期性四肢麻痺
<アルドステロン分泌による低K血症>
アルドステロンの作用として腎臓の集合管に働き、Naを取り込みKを分泌するがあります。
原発性アルドステロン症(PA)は副腎皮質が過形成・腺腫によりアルドステロンを自律的に分泌する疾患です。
Bartter症候群は二次性アルドステロン症をきたす疾患でした。
http://kumicho.asia/bartter%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4-802.html
<利尿薬による低K血症>
利尿薬はループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬は低K血症・高尿酸血症をきたすため、それらを持つ患者には適応外でした。
Basedow病に伴う周期性四肢麻痺
Basedow病はびまん性甲状腺腫を伴ったTSH受容体抗体を認める自己免疫性疾患で、甲状腺機能亢進症を呈します。Basedow病は20~40代の女性に多い疾患です。ですが、Basedow病を背景にした周期性四肢麻痺はBasedow病の男性に認めることが多いのが特徴です。また発作的に起こる誘因があります。他にも、甲状腺中毒症を背景にした周期性四肢麻痺には特徴があります。
<Basedow病を背景とした周期性四肢麻痺のポイント>
- (東洋人のBasedow病患者の)男性に多い
- 誘因として運動・過食・飲酒などがある
- 発作時には血清Kは低下していることが多い
- 症状は四肢(特に下腿)近位筋に強い
- 脳神経支配筋(眼筋、表情筋、球部筋など)、呼吸筋、括約筋は傷害されない
なぜ運動・過食・飲酒後なのか
これらを理解する上で重要なポイントがあります。
インスリンは糖を取り込む際細胞内にKも取り込む
意外と忘れやすいポイントですが、インスリンはNa+-K+ポンプを活性化させ、細胞内へのK+の取り込みを促進します。
インスリンの分泌は血糖値の上昇を膵臓ランゲルハンスβ細胞が感知して必要量追加分泌されます。したがって、
糖質の摂取(過食・飲酒)+糖の放出(激しい運動)
↓
血糖値の上昇
↓
インスリン分泌亢進
↓
低K血症
の流れです。また、激しい運動が誘因になるのは、グリコーゲン分解による糖の放出のみならず、疲労による糖質需要量の増加も考えられます。
なぜ男性に多く、下腿近位筋に多いのか
筋肉量が多い = 必須エネルギー量が多い ととらえれば、男性に多いこと、四肢(特に下腿近位筋)に多いことがうなずけます。
繰り返しますが、Basedow病は女性に多い(男女比 1:5)疾患ですが、ことにBasedow病に伴う周期性四肢麻痺は圧倒的に男性に多い(男女比 10:1)ことが特徴です。
なぜ激しい運動をした翌朝に多いのか
血中インスリンの濃度がピークに達するのは、糖質の過剰摂取や激しい運動の後の約2時間後です。したがって、糖質の過剰摂取や激しい運動をしてから数時間後、多くは翌朝早朝に発症します。
Basedow病で全身の代謝が亢進している状態に、過食・飲酒・運動などの誘因が重なって生じるものです。ですから、数時間から長くても数日で回復します。
インスリンがKの取り込みに働いていることを知れば、たくさん覚えなくても理解できます。
コメント
現在55歳です。
私の病態について報告します。軽い?周期性四肢麻痺(自己判断)・糖尿病(負荷テストで×最近は A1C 5.7NGSP)・慢性じんましんの疾患を持ってます。バセドウ病はありません。
周期性四肢麻痺は、20代後半から、夜暴食をした翌朝、四肢の筋肉痛が発生する事が、3~4年ごとにあり、階段を上る時筋肉が痛い状態が1週間続く状態でした。病院に行っても原因不明で終わりました。
30歳前位から、慢性じんましんを発症し、現在も服薬治療中です。
糖尿病の診断は49歳ごろです。
52歳の頃、周期性四肢麻痺で、足の筋肉がマヒし歩けなくなりましたが、15分ほど立つ努力をしたら、歩けるようになりました、その日の夕方診療所に行きましたが、原因は特定できずそれ以降は、極端な夜の暴食をしない事で、歩けない麻痺は発症していません。このころ、周期性四肢麻痺をインターネットで見つけ、なるほどと思っています。
最近、低炭水化物ダイエットを行って気付いたのですが、
① 周期性四肢麻痺は、インシュリンが関係している
② 慢性じんましんが少し改善された → じんましんの原因はインシュリン
インシュリンで四肢が麻痺したことに対する自己防衛反応
③ 糖尿病もインシュリンが関係している
④ 何らかの遺伝子疾患
以上の事は、近くの医療機関では検査できないと思っています。このような事例をご存知ですか?
糖尿病を患われてから、現在A1cが5.7 NGSPまでコントロール出来ているんですね。長年悩まれていた謎の四肢の筋肉痛に関しても、ご自身でうまくコントロールできているようです。
また歩けなくなるかも知れないと思うと不安になることもあるかも知れませんが、今の状態を継続できることを願っています。