失行とは
失行(apraxia)とは、運動機能・知能・意識障害では説明つかず、実行しようとする意志があるにも関わらず、合目的な運動が出来ないことを指す。高次機能障害(脳の損傷による障害)のひとつである。
「運動機能・知能・意識障害では説明つかず」がポイントで失行は除外診断によって診断されます。以前出来たことが出来なくなることだけでは「失行」とは言えず、麻痺(錐体路障害)や失調(小脳・後索障害)その他の運動機能障害、失認、意欲の障害など、その他の障害を除外したうえで、実行しようとしても目的の運動が出来ないと失行と診断される。
<医師国家試験 110G48>
68歳の男性.右手が使いづらいことを主訴に来院した.2年前から箸が使いづらいこと,ボタンをかけにくいことを自覚するようになり,最近は箸で食事ができなくなったため受診した.意識は清明.血圧138/76mmHg.言語はやや流暢さを欠く.右上肢で軽度の筋強剛を認め,筋力は正常で筋萎縮はない.腱反射は右上肢で軽度亢進しており,病的反射はない.歩行はやや不安定である.手指の写真(A,B)を次に示す.Aに示す形をまねるように指示すると,患者は左手ではまねることができるが右手ではBに示すようになる.
右手が使いづらい主な要因はどれか
失行の種類
<観念性失認>
使い慣れている日常の動作がわからなくなる。責任病巣は左角回。
物の名前・用途はわかるのに、使い方・手順・一連の動作がわからなくなること。
「これは何ですか?」
「ハサミです」
「何に用いるのですか?」
「紙を切るのに使います」
「ではハサミを使って紙を切ってください」
↓
実際にハサミを持って切ろうとするのに、うまく使えない。
<観念運動性失行>
自分では正しく運動できるのに、口頭で指示をされると出来ないこと。
患者自身は自発的にできるので気づかないことが多い。責任病巣は優位半球の縁上回。
歯磨きしよう。自分で歯磨きできる
↓
「歯磨きをしてください」
口頭指示だと歯磨きの動作ができなくなる。
その他↓
自発的に「バイバイ」できるのに口頭指示では「バイバイ」できない。
敬礼をしてください→敬礼できない
<肢節運動失行>
肢節運動失行では自発的にも出来なくなる。病変部位の対側に出現し、指先を使った細かい動作(巧緻運動)ができなくなり、しばしば麻痺と混同される。「キツネ肢位」「じゃんけん肢位」ができない。責任病巣は中心前回もしくは中心後回。
「このようにキツネを手でつくってください」
「このようにチョキをつくってください」
<着衣失行>
服を裏表逆に来たり、ズボンを頭に被ったりしてしまう失行。しかも誤って着ても患者は気がつかない。劣位半球の頭頂葉〜後頭葉の障害で生じる。
<構成障害>(構成失行)
絵をかく、積み木を組み立てるなどの構成行為ができなくなる。失行の定義とは異なるため、現在では構成障害と呼ばれることが多い。