心筋梗塞は冠動脈血流の急激な減少により心筋が壊死した病態です。
梗塞とは壊死した状態でしたね。(虚血と壊死の違いがわからない人はこれを読んで進んでください。)
従って、心筋傷害マーカーの上昇は心筋梗塞の確定診断になります。狭心症では認められないからです。しかしながら、血液検査所見はあくまで裏付けであり、確定診断の結果を待って治療が遅れてはなりません。
心筋梗塞の確定診断の流れを見てみましょう。
<心筋梗塞診断の流れ>
- 冠危険因子(高血圧、糖尿病)
- 典型的な症状(前胸部絞扼感が20分以上持続)
- 心電図所見(ST変化など)
まずは心筋傷害マーカーを知ろう
<心筋傷害マーカーで有用なもの(抜粋)>
- 心筋トロポニンT
- CK-MB
- ミオグロビン
- 心臓型脂肪酸結合タンパク(H-FABP)
心筋トロポニンTは筋原線維で、CK-MBはCKのアイソザイムの一つで、心筋逸脱酵素です。
この中で特に有用(感度、特異度が高い)なのは、心筋トロポニンT、CK-MBです。一般にトロポニンTの迅速診断キットが早期診断に用いられています。
心筋トロポニンTは健常者では上昇しないため、微細な心筋傷害も検知できます。ただし、心不全や心膜炎でも上昇するので注意が必要です。
また心筋トロポニンは発症4時間程度で上昇するため、超急性期の診断には向きません。
一方、H-FABPは発症1〜2時間で上昇し、心筋トロポニンTよりも早くから上昇します。したがって、トロポニンTよりも特異度は低いですが、H-FABPの迅速診断キットも使用されます。
その他の有用な検査所見
血液検査で得られる情報は、心筋傷害マーカーだけではありません。心筋トロポニンTは発症4時間前後から上昇し始めますが、それよりも早く炎症を反映してWBCが上昇します。
炎症といったらCRPも上がるんじゃないの?
CRPが上昇するのは1〜3日経ってからと時間がかかるんだ。CRPはすぐには上昇しないという知識は他でも使えるから覚えておきましょう。当然ながら、速さが求められる心筋梗塞の診断にはCRPは役に立ちません。
またトロポニンTの他にも心筋逸脱酵素として
- CK
- AST
- LDH
ASTのみ?
ALTはAST程は上昇しません。つまり、AST ↑ & ALT→ です。
AST、ALTは肝障害時の逸脱酵素と思われている人もいるかもしれませんが、ASTは肝臓以外の臓器にも存在し、セットではなくASTのみが上昇している(AST/ALT比 ↑)場合、肝障害以外の可能性を考えます。心筋梗塞の他に、溶血性貧血、骨格筋障害などがあります。
またCKは予後の指標に有用です。CKの最大値は梗塞範囲を反映する指標であり、心筋へのダメージを反映しています。
梗塞の範囲の判定には心電図も有用です。広範なST上昇を認めれば予後は悪いことは明白でしょう。
ST"上昇"は全層性虚血を意味する!
不安定狭心症の血液所見について
不安定狭心症はあくまで狭心症なので、心筋の崩壊を伴いません。AST↑やCK↑を認めません。
心筋梗塞の中には、STが上昇しないものもあり不安定狭心症との鑑別が必要になります。その際に、AST、ALTなどの心筋傷害マーカーが鑑別に有用です。しかし、心筋トロポニンTは不安定狭心症でも上昇することもあります。心筋トロポニンTが上昇するようであれば、それはもう心筋梗塞に移行するような状態であるといえリスクが高まります。