通常副腎皮質ステロイドは免疫能を低下させるので感染症に対して投与してはならない。
しかしながら、副腎皮質ステロイドを積極的に投与するケースがある。
- 細菌性髄膜炎
- 亜急性甲状腺炎
- 急性喉頭蓋炎
- COPDの急性増悪
- Ramsay Hunt症候群
- 劇症肝炎
亜急性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎は、何らかの感冒症状(ウイルス感染が多い)の後に、高熱、圧痛を伴う甲状腺腫をみとめます。甲状腺腫は硬く、痛みは前頸部から耳介後部へ放散する。("のどの痛み"を訴える)
放置しても8週くらいの経過で自然治癒するが、自覚症状や炎症が強い場合は積極的にNSAIDs、副腎皮質ステロイドを投与する。
【108I70】
42歳の女性.「風邪がいつまでも治らない」と訴えて来院した.2週前から微熱が出始め,その後38℃程度まで上昇,同じころから「のど」も痛くなり,寝るのもつらいほどだという.以前,風邪で処方された鎮痛薬を飲んでみたが改善しなかった.既往歴と生活歴とに特記すべきことはない.体温38.5℃.脈拍84/分,整.血圧122/80mmHg.前頸部で気管の左外側に圧痛を認める.咽頭に発赤と腫脹とを認めない.心音と呼吸音とに異常を認めない.血液所見:赤血球420万,Hb 13.5g/dL,Ht 39%,白血球8,000,血小板19万.血液生化学所見:TSH 0.02μU/mL(基準0.2~4.0),FT43.3ng/dL(基準0.8~1.7).免疫血清学所見:CRP 5.5mg/dL,抗TSH受容体抗体陰性.頸部超音波検査で疼痛部に一致した低エコー域を認める.
治療薬として最も適切なのはどれか.
a 抗菌薬
b β遮断薬
c 無機ヨード
d 抗甲状腺薬
e 副腎皮質ステロイド
急性喉頭蓋炎
急性喉頭蓋炎はインフルエンザ桿菌B型が原因としてはさいたで、嚥下痛、咽頭痛が著明である。喉頭ファイバースコープにて、
牛肉のように赤く喉頭蓋が腫れる
のを確認したら、即座に気道確保し、O2を投与する。急性喉頭蓋炎が怖いのは進行すると窒息症状をきたす救急疾患であるからである。
治療には即効性のあるβ-ラクタム系(アンピシリン)に加え、ステロイドを投与する。これは喉頭蓋の腫れを引き、気道閉塞を防ぐためである。
COPDの急性増悪
Ramsay Hunt症候群
Ramsay Hunt症候群は、ざっくりいうと「痛みを伴う顔面神経麻痺」を生じるもので、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が原因で
- 耳介・外耳道の疱疹
- 同速の末梢神経麻痺(額のしわ寄せ不能)
- 同速の内耳神経症状(感音難聴・末梢性めまい)
Ramsay Hunt症候群は原則入院させ、アシクロビルを投与しつつ副腎皮質ステロイドを投与する。この場合も、副腎皮質ステロイドの投与目的は炎症を抑えるためです。炎症がひどすぎて神経を損傷し後遺症を残す可能性があります。
劇症肝炎
劇症肝炎の原因は肝炎ウイルス(90%)、残りは薬剤性などです。
全てのウイルス性肝炎は劇症化する可能性がありますが、頻度はウイルスによって異なり、B型とE型は1~2%と高く、A型は低く、C型肝炎は極めて低いと考えられています。急性肝炎の一部だけが劇症化する理由も不明ですが過剰の免疫反応によって肝細胞がは破壊されることは確かです。
劇症肝炎の治療とステロイドパルス
劇症肝炎では肝臓は機能しないと思ってください。このため、先ず行われるのが血漿交換(plasmapheresis)です。これで肝臓が合成する血漿蛋白を補充できます(PT時間も正常化)
血漿交換だけでは中毒物質の排除が不十分なため、血液透析を組み合わせて実施します。
その上で、過剰な免疫応答によって肝細胞がさらに破壊されないように副腎皮質ステロイドのパルス療法が行われ、併用して免疫抑制剤(シクロスポリン)を投与します。
コメント
こういった大原則の例外は非常に重要だと感じます。
個人的には、医師国家試験109A59にて出題された、感染によるCOPD急性増悪も思い浮かびました。