睡眠時無呼吸症候群(SAS: sleep apnea syndrome)は睡眠中に無呼吸が頻回に出現する病態である。SASには肥満などの原因により上気道が閉塞して発生する閉塞型と稀な中枢性のものがある。このページでは臨床的に数が多い閉塞型を取り上げる。
SASまとめ |
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睡眠時無呼吸症候群について
睡眠時無呼吸症候群SASを、夜うまく寝れないために日中の眠気を引き起こすだけでしょ?と思ってはいけない。放置すれば、5~10年で死亡する原因になる病態である。怖いのは合併症で、まず高血圧があげられる。SASを基礎疾患にもつ人は糖尿病や他の血管病変のリスクを持っている場合があり、心血管疾患の発症リスクが高い。
好発
中年の肥満男性に多い。肥満が最大のリスク因子である。相撲取りの2人に1人はSASであるといわれ、白鵬関も治療されている。
原因
①肥満 Obesity
②少顎症、長顔などの解剖学的構造(肥満でなくても閉塞性SASの原因になる)
③扁桃肥大(小児に多い。扁桃摘出術)
④巨舌(先端巨大症、甲状腺機能低下症などの代謝内分泌疾患)
などがある。好発で「肥満が最大のリスク因子である」と書いたが、②~④の原因を持つ場合は違った対応が必要である。②は非肥満例で閉塞型SASをきたし、③の好発は小児である。③の場合は、扁桃腺の摘出/縮小術の適応であるし、④は原疾患の治療で閉塞型SASは軽快する。根本的な原因になることが多いのは肥満で間違いないが、原因が混合することもある。
症状
夜間の症状
- 激しいいびき
- 無呼吸
- 異常体動
- 夜間頻尿
- 睡眠中の覚醒
昼間にみられる症状
- 傾眠(耐えきれない眠気。いつのまにか寝てしまう)
- 起床時の頭痛
- 作業効率の低下(ぼ~っとしてしまう)
起床時の頭痛は、睡眠時無呼吸により高二酸化炭素血症をきたしたことが原因である(血中の二酸化炭素濃度の上昇すると脳血管の拡張し頭痛を生じる)。いびきをかく中年肥満男性で、昼間居眠りばかりしている、日中の耐え難い眠気により交通事故を起こしてしまった、などであれば、単に寝不足と考えずSASを疑う。
余談ではあるが、2012年関越自動車を走行していたディズニー行きのツアーバスが事故を起こしたことを覚えているだろうか(関越自動車道高速バス居眠り運転事故)。これも運転手はSASであったと言われている。居眠り運転 = 運転者の過失 と思われていたところに、実はSASという病気が隠れているのではないか?と社会的な関心も高まっている。
寝たはずなのにどうしても眠い、人から酷いいびきをかいているといわれた。思い当たる節がある人は、医師に相談して検査を受けてみるのもいいかもしれない。
呼吸性アシドーシス、二次性多血症
睡眠時無呼吸症候群では
PaO2↓ PaCO2↑
になる。したがって、呼吸性アシドーシス、二次性多血症をきたす。
合併症
- 高血圧
- 心不全
- 心筋梗塞、狭心症
- 不整脈
- 脳梗塞、脳出血
SASを呈する患者には糖尿病、肥満などの生活習慣病の合併が多く、心血管疾患の発症リスクが高い。これらは死因につながる為、高血圧の是正など早期から行うことが重要である。就寝中の低酸素状態や中途覚醒により、交感神経が亢進し高血圧を生じる。就寝時に収縮期血圧が200前後まで上昇することもしばしばある。
治療
- 持続的陽圧換気 CPAP(continuous positive airway pressure)
- 肥満の改善
CPAPは鼻にマスクをかぶせ、持続的に陽圧をかけることで気道の閉塞を防ぐ方法。日中の傾眠、高二酸化炭素血症の改善にはCPAPが有効かつ安全である。しかし、CPAPには寝苦しさもあり嫌がる人もいる。また日中の自覚症状がない方もいて、治療を正しく継続することはしばしば難しい。
患者さんとともに治療する
SASの改善の根本的に効果的なのは肥満や糖尿病を含めた生活習慣の改善である。SASは生活習慣病の側面があり、患者さんが正しく病気を理解して、意欲的に減量や治療に取り組む姿勢も病気の回復には大切だと私は思う。
生活指導
- 側臥位をとる
- 肥満の是正
- アルコール摂取の中止
- 向精神薬の投与の回避
仰臥位は舌根沈下させ上気道狭窄を助長させるため。
肥満も上気道狭窄の原因であるため、肥満の是正を行う。
アルコールは眠りが浅くなることも中止の理由だが、上気道筋の活動性を低下させることが分かっている。
睡眠薬も上気道筋の活動性を低下させる。