ツツガムシ病って?
ツツガムシを媒介としたリケッチア感染症
ツツガムシは野山に生息するダニの一種で漢字では「恙虫」と表記し、「病気」を意味する古語です。現在でも「お陰様でつつがなく暮らしています」などといいますね。(ちなみに、お陰様でのお陰様はご先祖様の事を指します)。ツツガムシ病と銘を打っていますが、病原体はオリエンチア属のO.tsutsugamushi であり恙虫は単なる媒介動物であり、これに寄生しているリケッチアがヒトの体内に侵入することで感染が成立します。したがって、ヒトがツツガムシ病に感染するのはリケッチアを持ったツツガムシ(有害虫)に吸い付かれたときのみです。(有害虫は統計上は1%以下とされています。)
ヒト-ヒト感染はありません。
ツツガムシ病の症状
野外活動後、1週間〜10日間の潜伏期を経て全身倦怠感、頭痛、関節痛を伴う高熱で発症します。しばしば、感冒と誤診されるケースがあります。
(メジャーな)抗菌薬を投与して経過を診たが一向に治らない...何かおかしい
ツツガムシ病には必ず刺し口があります。指し口は腋窩、鼠径部、外陰部、胸腹部など通常衣服に覆われた柔らかい部分に多く容易には見つけられません。
感冒様症状。抗菌薬投与しても治らない...何かおかしい
→キャンプに行った? 刺し口が服の下にあるかもしれない
→あるじゃないか
→ツツガムシ病疑い
リンパ節腫脹・体幹を中心に広がる発疹・DIC
刺し口は最初赤く腫れているのですが、次第に水疱を生じ痂皮化してやがて水疱になります。リケッチアは刺し口に留まらずリンパ血行性に広がり、所属リンパ節を腫脹させ、発疹が体幹を中心に広がります。そして、発症後10日経過した頃からリケッチアは血行性に散布され全身の血管周囲炎を引き起こし、播種性血管内凝固症候群(DIC)を引き起こします。適切な治療なしに10日以上経過した場合の救命率は数十%に達すると言われています。
診断が遅れ、適切な治療が遅れたツツガムシ病は致死的
これは医療者側からすると重大な視点です。感冒と思って誤診しそのままにすると、治療が遅れる可能性があるからです。
検査所見
白血球減少、血小板減少、好酸球消失、ときにAST,ALT↑、LDH↑が特徴的。
比較的徐脈
ツツガムシ病の臨床問題
【105D47】
40歳の男性.小学校教諭.5日間続く発熱と全身倦怠感とを主訴に来院した.2週前に林間学校から帰ってきた.林間学校では野外活動を引率した.帰宅して9日後から発熱と倦怠感とを訴え,自宅近くの診療所でセフェム系抗菌薬の投与を受けていたが,症状が改善しないため紹介されて受診した.意識は清明.体温38.5℃.脈拍92/分,整.呼吸数24/分.血圧122/76mmHg.右前腕に皮疹を認める.心音と呼吸音とに異常を認めない.腹部は平坦,軟で,右肋骨弓下に肝を4cm触知する.脾を触知しない.血液所見:赤血球396万,Hb 12.0g/dL,Ht 38%,網赤血球1.2%,白血球7,800(桿状核好中球12%,分葉核好中球51%,好酸球2%,好塩基球1%,単球6%,リンパ球28%),血小板8.1万.血液生化学所見:尿素窒素18mg/dL,クレアチニン0.6mg/dL,総ビリルビン0.9mg/dL,AST 364IU/L,ALT 451IU/L,LD 736IU/L(基準176~353).CRP 8.3mg/dL.皮疹の写真を次に示す.
WBCが感染症の割には上昇しておらず、好酸球はほとんど消失することが特徴です。(寄生虫は好酸球↑のはず)
その他、血小板減少、AST,ALT,LDH↑比較的徐脈
60歳の男性.発熱と全身の皮疹を主訴に来院した.15日前に山へ山菜採りに行った.5日前から発熱があり,3日前から全身に皮疹が出現していた.体温39.5℃.全身に痒みのない紅色丘疹が多発し,右下腿には黒褐色の痂皮が付着した紅斑を認める.血液所見:赤血球436万,Hb 13.6g/dL,Ht 42%,白血球6,800,血小板32万.血液生化学所見:AST 120IU/L,ALT 110IU/L.CRP 3.5mg/dL.胸腹部(A)と右下腿(B)の写真を次に示す.
ツツガムシ病 |
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