鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアの鑑別
鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニアは外ヘルニアと言われ、腹腔内臓器が腹腔外へ脱出するものである。
なぜこの3つを取り上げたかというと
- 鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアは脱出部位が近く時に誤診の原因になるため
- 大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニア嵌頓しやすいヘルニアであるため
【鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアの比較】
鼠径ヘルニア | 大腿ヘルニア | |
好発 | 男性に多い(男女比 5:1)
乳幼児期の男児(外鼠径ヘルニア) 壮年期以降の男性(内鼠径ヘルニア) |
中年以降の女性
経産婦に多い |
部位 | 鼠径靭帯の上 | 鼠径靭帯の下....※
大腿動静脈の内側 |
鼠径ヘルニアについて
内鼠径ヘルニア…肥満、筋肉の衰えによりHesselbach三角から直接腹壁を貫通し外鼠径輪に脱出。
鼠径ヘルニアはヘルニアの中でも頻度が高い。
鼠径ヘルニアとの鑑別のため、立位での超音波検査やCT検査が有用。
鼠径ヘルニアにおける嵌頓および腸管壊死の有無を示唆する所見として
- 用手還納不可能の硬い腫瘤
- 腸閉塞の所見
臨床エピソード
78歳女性。4回経産婦。突然右鼠径部痛が出現したためラインした。既往歴に特記事項なし。身長154cm、体重56kg、HR76/分、整。血圧 136/78mmHg。右鼠径靭帯直下に、半球状で径2cm大の有痛性腫瘤を触知するが、圧迫で平坦化し痛みも軽快する。
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高齢の4回経産婦。突然の発症で用手還納可能。部位が鼠径靭帯”直下”
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大腿ヘルニアを考える。
大腿ヘルニアは嵌頓を起こしやすいので、現在用手還納が可能であっても外科に紹介スべき。
大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニア
2つとも嵌頓のリスクが高く、その際は緊急手術の適応になる疾患です。
高齢女性(特に痩せている人)がイレウス症状(腹痛、悪心・嘔吐)を訴えている場合は、大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアを必ず鑑別に入れ、鼠径部の診察を行う。
大腿ヘルニアは体表から触れるが、閉鎖孔ヘルニアは体表から触れにくい。
閉鎖孔ヘルニアは稀な外ヘルニアで、骨盤ヘルニアの一つで診断にはCTが有用。恥骨筋と外閉鎖筋の間に嵌頓した腸管が認められる。
閉鎖孔ヘルニアのHowship-Romberg徴候
Howship-Romberg徴候とは、閉鎖神経圧迫による大腿内部から膝部にかけて生じる疼痛。