医学を学ぶ上で、筋原性疾患は近位筋優位に障害され、神経原性疾患は遠位筋優位の障害であることが基礎事項です。
しかし、この原則『神経原性疾患は遠位筋障害』の原則の例外といえる疾患つまり
神経原性疾患なのに近位筋優位の障害
をこのページでは紹介します。これらは試験に問われやすいポイントとも言えます。
『神経原性疾患は遠位筋障害』の原則の例外はSMAとBSMAです。
<神経原性疾患なのに近位筋優位に障害される疾患>
- Werdnig-Hoffmann病(SMAⅠ型)
- Kugelberg-Welander病(SMAⅢ型)
- Kennedy-Alter-Sung症候群(BSMA)
Werdnig-Hoffmann病、Kugelberg-Welander病は脊髄性筋萎縮症(SMA:spinal muscular atrophy)に含まれます。脊髄性筋萎縮症は運動ニューロンの変性疾患で、病態は「下位運動ニューロンの変性」です。後述するBSMA(球脊髄性筋萎縮症)と違い、重症例でない限り球麻痺が出ないことが特徴です。球脊髄性筋萎縮症(BSMA: bulbospinal muscular atrophy)も同様に「下位運動ニューロンの変性」に加えて球麻痺と性腺異常を伴う疾患です。
運動ニューロンの変性疾患といえば有名なALS(筋萎縮性側索硬化症)がありますが、ALSと同様これらの運動ニューロン変性疾患は根治療法はなく対症療法(呼吸管理、拘縮予防)を行います。
Werdnig-Hoffmann病
脊髄筋萎縮症(SMAⅠ型)である。遺伝形式は常染色体劣性遺伝、出生児に発症しfloppy infantを呈する。顔面の筋肉は障害されないため、表情は豊か(進行すれば時に顔面筋麻痺)。線維束性収縮を認める。呼吸筋障害により多くは生後1年以内に死亡。
Kugelberg-Welander病
脊髄筋萎縮症(SMAⅢ型)である。遺伝形式は常染色体劣性遺伝、2〜18歳に発症し、進行は緩徐である(floppy infantを呈さない)。起立歩行開始後に下肢の筋力低下で発症。登攀性起立(Gowers徴候)を認める
Kennedy-Alter-Sung症候群
球脊髄性筋萎縮症(BSMA)。遺伝形式は伴性劣性遺伝。X染色体上にあるアンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピートの異常進展(triplet repeat病・ポリグルタミン病の一つ)が原因。発症は成人男性(20〜40歳代)で、進行は緩徐で予後良好。四肢の筋力低下・筋萎縮・性腺機能低下が症状。知能は正常であある。
アンドロゲン受容体異常により性腺機能低下きたし、女性化乳房、睾丸萎縮を呈する。
【108D30 球脊髄性筋萎縮症】
60歳の男性.嚥下障害を主訴に来院した.35歳ころに下肢の筋力低下が出現し,徐々に進行した.40歳ころには上肢にも筋力低下が出現し,両手に粗大な動作時振戦がみられるようになった.50歳ころには,ろれつが回りにくくなり,半年前から嚥下障害が出現し鼻声になった.平地歩行はかろうじて可能である.発話の際に顔面筋の線維束性収縮が認められる.患者は3人兄弟の末子で兄が同じ症状を示すという.挺舌時の写真を次に示す.
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成人男性。緩徐進行性。四肢の筋力低下、球麻痺(ろれつが回らない、舌萎縮、嚥下障害)動作時振戦、線維束性収縮、兄が同じ症状(XR)
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Kennedy-Alter-Sung症候群(BSMA球脊髄性筋萎縮症)