慢性甲状腺炎(橋本病)は中年女性に多い、慢性の炎症疾患です。自己免疫性の炎症により甲状腺濾胞細胞が変性・萎縮します。多くは無症状ですが、加齢とともに病態は進行し甲状腺機能低下症を発症するケースが有ります。
検査所見では
- 抗Tg抗体陽性
- 抗TPO(甲状腺ペルオキシダーゼ) 抗体(= 抗ミクロゾーム抗体)陽性
- 細胞診でリンパ球の浸潤
が認められます。
- 中年女性に好発する疾患であること
- 自己免疫性の機序があること
- 多くは無症状だが進行すると甲状腺機能低下症を発症するケースがあること
以上のような概要をおさえたうえで、症状をみていきましょう。
症状
甲状腺機能が正常な人が多い
症状としてはびまん性の甲状腺腫大のみを認め、甲状腺機能が正常な場合が約70~80%です。
橋本病は甲状腺機能低下症の原因の一つ
慢性甲状腺炎 = 甲状腺機能低下症 ではありません
甲状腺機能低下症の他の原因として下垂体性のもの、視床下部性のものがあります。一方で、甲状腺機能低下症の原因疾患の多くは慢性甲状腺炎(橋本病)です。紛らわしいですが、慢性甲状腺炎(橋本病)であって、甲状腺機能低下症は橋本病だけではないことに気をつけましょう。
慢性甲状腺炎(橋本病)のうち、甲状腺機能低下症に移行する症例は約10%です。
甲状腺機能低下症に至ってない橋本病患者は無治療で経過観察している症例が多く、注意深く経過観察することが大切になります。
注意深い経過観察ってどういうこと?
橋本病では甲状腺機能は正常であることが多いですが、加齢に伴い甲状腺機能が低下する症例が増えてきます。また、潜在性甲状腺機能低下症は数年後に甲状腺機能低下症に移行する症例が多いので、注意深く経過を観察し、症例によっては潜在性であってもサイロキシンの投与を開始します。
<潜在性甲状腺機能低下症>
TSHが上昇により甲状腺ホルモンの分泌が保たれている状態です。
甲状腺の一部が破壊され、代償的にTSHの分泌を増加させることで他の元気な濾胞を働かせ間に合わせている状態です。破壊が進む、もしくはTSHの増加では間に合わなくなると、甲状腺ホルモンの低下が顕在化し、甲状腺機能低下症を発症します。
10%しか発症しないのに甲状腺機能低下症の原因の多くは橋本病?
日本では潜在性を含めると成人女性の約10%に橋本病の基盤があると言われています。母数nが非常に大きいため、甲状腺機能低下症の原因の大半は橋本病が占めていることです。
甲状腺機能低下症の症状
甲状腺機能低下症をきたした場合、以下の様な症状があります。
- 低体温(寒がり)
- 徐脈、低血圧
- 心嚢液貯留(粘液水腫心)、心拡大
- 便秘
- 嗄声
- 脱毛
- アキレス腱反射の弛緩相の遅延
- 食欲低下
- 総コレステロール↑ (LDL受容体の発現低下)
- 精神症状(受け答えが滅裂、動作緩慢、意欲の低下など)
- 認知機能の低下 ←治療可能な認知症
- 高CK血症
有名なものも多く、ここを掘り下げると橋本病のイメージが甲状腺機能低下症になってしまいますので、別の機会で掘り下げます。
治療
甲状腺腫のみがある場合は、経過観察します。
甲状腺機能低下症ある場合は、甲状腺ホルモンサイロキシン(T4)を補充します。
トリヨードサイロニン(T3)ではダメなの?
トリヨードサイロニン(T3)も甲状腺ホルモンです。理論的には間違いではありませんが、薬剤として投与する場合には不向きな側面があり
が挙げられます。T3は半減期が約1日と短く血中濃度が安定しません。元々血中のT3の量は多くなく、T4の1~2%ですが、その作用は5~8倍強いと言われています。「めちゃくちゃ強くてすぐいなくなってしまうやつ」をコントロールするのは中々難しい側面も有り、急速な補充を要する場合以外は用いられません。
<正常の代謝 -T4はT3へ代謝される>
さらに、血中に分泌される甲状腺ホルモンのほとんど全ては最初はT4(ヨードを4つ持つ)です。その後体内で、脱ヨード化反応を受けてT3(ヨードを3つ持つからトリヨード)へ代謝されます。正常の分布率、代謝の流れを考えればサイロキシンT4を補充するのが妥当でしょう。
サイロキシン補充の原則
サイロキシンの補充はごく少量から補充を開始し、漸増していく
甲状腺機能低下症、特に粘液水腫などをきたした重症例では気をつけます。これは最初から大量投与すると心筋の代謝亢進による相対的な酸素供給不足のため、狭心症発作や心筋梗塞に繋がる危険があるためです。
ヨードはだめなの?
ヨードは甲状腺ホルモンの材料です。実際に、ヨード欠乏で甲状腺機能低下症を生じることはあります。しかし、一方でヨード過剰も甲状腺ホルモンの合成を抑制することは有名です。これをWolff-Chaikoff効果といい、甲状腺クリーゼの治療に使われます。ヨード過剰が甲状腺機能低下症の原因になることも稀にあります。
治療薬紹介
チラージンS
thyroxine(T4:サイロキシン)製剤です。前述のとおり、甲状腺機能低下症の第一選択薬です。

チロナミン
Triiodothyronine(T3: トリヨードサイロニン)製剤です。

上記画像引用先:二田哲博クリニック
関連疾患
<Schmidt症候群>
原発性副腎皮質機能低下であるAddison病の原因のに自己免疫性の機序があります。この自己免疫性のAddison病と慢性甲状腺炎を合併することが有り、これをSchmidt症候群(シュミット症候群)といいます。
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