TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)とHUS(溶血性尿毒症症候群)は原因は異なるが、両者ともよく似た病態を示します。両者ともに血栓性微小血管障害症(TMA)と言われ、血栓を生じた結果様々な症状を呈するのでまとめて良く両者を理解して鑑別することが求められます。
破砕赤血球をきたす疾患の代表的な2つでしたね
簡単な鑑別ポイントを下にお示しします。
TTP | HUS | |
共通症状 |
|
|
意識障害 | (+) | 重篤になれば(+) |
異なる症状 | 発熱 | 上気道炎
胃腸炎 血便 |
好発年齢 | 若年女性 | 乳幼児 |
腎障害の程度 | 重篤
10%未満が透析へ |
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便検査 | ベロ毒素(-)
O-157(-) |
ベロ毒素(+)
O-157(+) |
TTPのポイント
TTPは何と言っても5徴!
- 発熱
- 血小板減少
- 溶血性貧血
- 動揺性の精神神経症状
- 腎機能障害
von Willebrand因子切断酵素(ADAMTS13)に対する自己抗体が出現し、ADAMTS13活性低下によりvon Willebrand因子重合体が蓄積します。その結果、血小板血栓が多発し、微小血管で赤血球が機械的に破砕されるのが本態でしたね。
精神神経症状が特徴的です。
症例問題のエピソードを読んでイメージを膨らませましょう。
<TTPの症例-1>
【98B19】
63歳の男性.意識障害と発熱とがあり救急車で搬入された.緊急検査で貧血と血小板減少とが認められた.末梢血塗抹May-Giemsa染色標本を次に示す.
発熱と貧血、血小板減少。破砕赤血球...
これにTTPの5徴の中でも特徴的な精神神経症状(この症例では意識障害)を組み合わせてTTP(血栓性血小板減少性紫斑病)と考えます。
<TTP症例-2>
【98D34】
66歳の男性.発熱と意識障害とのため来院し,直ちに入院した.1週前から37℃台の発熱が続き,昨日から家族との会話に支障をきたすようになった.2ヵ月前に冠動脈狭窄に対して冠動脈ステント留置術を受けた.その後,再狭窄予防のため抗血小板薬の投与を受けていた.呼びかけに応じるが話す内容にまとまりがない.体温38.2℃.脈拍112/分,整.血圧130/86mmHg.眼瞼結膜は蒼白で眼球結膜に黄染を認める.血液所見:赤血球270万,Hb 7.8g/dL,Ht 25%,網赤血球56‰,白血球6,700,血小板3万.末梢血塗抹May-Giemsa染色標本を次に示す.
TTPの5徴のうち(発熱、血小板減少、溶血性貧血、精神神経症状)が示されていますね。抗血小板薬(チクロピジン)の副作用に血栓性血小板減少性紫斑病を生じるがあります。それがヒントと言えばヒントです。近年は、チクロピジンよりもTTPの副作用の少ないクロピドグレルが使用されています。
HUSのポイント
HUSは乳幼児に多く、腸管出血性大腸菌EHEC(特にO-157)感染に続発することがポイントです。ですから、前駆症状として、下痢や血便、発熱のエピソードがあります。
ベロ毒素が原因となり、微小血管障害を生じます。HUSも微小血管障害性血栓症のTTPの5徴のうち精神神経症状を除いたものと覚えると良いです。
- 発熱
- 血小板減少
- 溶血性貧血
- 腎機能障害
また溶血性貧血は、血管内皮障害によるものとベロ毒素による直接的な溶血が原因であると考えられています。
以下に、症例問題をのせていきますが、「乏尿(腎不全)」に注目して見ていけば全体像がつかめます。悪さをしているのはベロ毒素ですが、感染が背景にあるので、白血球数が上昇していることにも注目ですね。
【109D55-抜粋】
7歳の男児.腹痛,下痢および顔色不良を主訴に母親に連れられて来院した.4日前から下痢が始まり,昨晩から腹痛を伴う血便が認められた.今朝から排尿がないのに気付かれ受診した.7日前に家族で焼肉を食べに行った.母親,父親および兄も軽い下痢を呈している.意識は清明.身長115cm,体重22kg(1週前は20.5kg).体温37.1℃.脈拍124/分,整.血圧130/76mmHg.呼吸数24/分.SpO2 98%(room air).心音と呼吸音とに異常を認めない.腹部は平坦で,自発痛と圧痛とを認めるが,筋性防御は認めない.肝・脾を触知しない.尿所見:蛋白2+,ケトン体1+,潜血3+
↓
7日前に家族で焼肉を食べ、家族も下痢症状。3~7日の潜伏期を経て発症する食中毒を考える
【106A60-抜粋】
4歳の男児.5日前から続く強い腹痛と血便とを主訴に来院した.昨日から尿量が減少したという.体温38.2℃.脈拍120/分,整.血圧120/86mmHg.呼吸数18/分.SpO2 96%(room air).顔面は蒼白である.眼球結膜に軽度の黄染を認める.前脛骨部にpitting edemaを認める.尿所見:蛋白3+,糖(-),沈渣に赤血球多数/1視野.血液所見:赤血球298万,Hb 7.0g/dL,Ht 23%,白血球23,000(桿状核好中球8%,分葉核好中球55%,単球7%,リンパ球30%),血小板5万.末梢血塗抹標本で破砕赤血球を認める.血液生化学所見:尿素窒素40mg/dL,クレアチニン1.1mg/dL(基準0.2~0.4),総ビリルビン3.5mg/dL,AST 45IU/L,ALT 16IU/L,Na 128mEq/L,K 5.5mEq/L,Cl 97mEq/L↓
4歳児に腹痛と血便からの尿量減少。発熱、溶血性貧血、血小板減少に加え、蛋白尿3+(腎機能障害)を認める。BUN/Cre比が40近くあり、またNaが128と低値であることから低張性脱水...。腎機能障害の強さを伺います。
【91F25】
3歳の女児.5日前から1日5,6回の下痢があり,近医で治療を受けていた.今朝から下痢便に血が混じるようになった.昨夕から尿量が減り,今朝1回暗赤褐色の尿が少量出た.元気がなく,顔色不良となってきたため来院した.体温37.6℃.血圧132/88mmHg.意識は清明.顔面蒼白で,眼瞼結膜は貧血状である.肝,脾は触知しない.赤血球240万,Hb 7.2g/dL,白血球10,200,血小板6万.血清生化学所見:尿素窒素46mg/dL,クレアチニン3.0mg/dL.末梢血塗抹May-Giemsa染色標本を次に示す.
この患児で予想される検査所見はどれか.3つ選べ.a 尿中β2-ミクログロブリン高値
b 網赤血球増加
c 血清LD高値
d 血清ハプトグロビン高値
e 直接Coombs試験陽性